肩甲骨運動の表現について
臨床のリハビリテーション場面において、肩甲骨の運動を表現する際にさまざまな用語や運動の表現が用いられることがあります。
『肩甲帯』の運動として表現することや、『肩甲骨』の運動として表現する場合があり、『肩甲帯』と『肩甲骨』では、可能な運動が異なることから、表現が混在して曖昧になってしまう場合があります。
そこで今回は、『肩甲帯』や『肩甲骨』の運動の表現について、整理したいと思います。
まず、『肩甲帯』として表現する場合には、関節可動域検査をイメージして頂ければと思います。
肩甲帯の関節可動域検査の項目には、『挙上/下制』、『屈曲/伸展』があります。
・肩甲帯の挙上は、胸鎖関節での鎖骨の挙上と、肩鎖関節での肩甲骨の下方回旋が生じることで、肩甲骨がまっすぐ上方移動することができ、肩甲帯の下制は、これの反対の運動になります。
・肩甲帯の屈曲とは、胸鎖関節での鎖骨の前突と、肩鎖関節での肩甲骨の内旋から成り、肩甲帯の伸展は、これの反対の運動になります。
このような運動のイメージを持ったうえで、観察された運動を肩甲帯の運動として、表現する際には、関節可動域検査の項目で表現する必要があります。
左:下方回旋 右:上方回旋
つぎに、『肩甲骨』として表現する場合には、肩甲胸郭関節での肩甲骨の運動をイメージして頂ければと思います。
肩甲胸郭関節での肩甲骨の運動は、『挙上/下制』、『内転(後退)/外転(前突)』、『上方回旋/下方回旋』があります。
この肩甲胸郭関節は、機能的関節であることからも、胸郭上での肩甲骨の動きとして捉える必要があります。
・胸郭上で肩甲骨が、上方に移動する運動が『挙上』であり、反対に下方に移動する運動が『下制』です。
・胸郭上で肩甲骨が脊柱に近づく運動が『内転(後退)』であり、反対に脊柱から遠ざかる運動が『外転(前突)』です。
・胸郭上で、肩甲骨の関節窩が上方を向くように回旋する運動が『上方回旋』であり、反対に関節窩が下方を向くように回旋する運動が『下方回旋』です。
肩甲骨の運動として表現する際には、胸郭に対して肩甲骨がどのように動いたのかを観察し、肩甲胸郭関節の運動として表現する必要があります。
『肩甲帯』、『肩甲骨』の運動はともに肩鎖関節と胸鎖関節の運動が複合して構成されることから、実際の関節運動を考える際には、より詳細に考える必要があります。
このように『肩甲帯』や『肩甲骨』の運動を正確に理解し、用語や運動の表現を正しくおこなうことで、リハビリテーションの現場において、正しく情報の共有ができると考えられます。
楠 貴光先生
園部病院リハビリテーション科
神戸リハビリテーション福祉専門学校理学療法学科 臨床講師
上肢機能に関する学会・論文発表が多数
臨床と研究を組み合わせて高いリハビリテーション効果を出している若手臨床家