PT楠貴光の臨床家ノート 肩甲骨の機能を運動学的に考える その21 大、小菱形筋の効果的なストレッチング
大、小菱形筋の効果的なストレッチングを僧帽筋上部線維と比較して考える。
前回は、僧帽筋の効果的なストレッチングの方法について整理しました。
今回は、大、小菱形筋の効果的なストレッチングの方法について考えてみましょう。
大、小菱形筋に対するストレッチングは、前回の僧帽筋上部線維との違いを確認するとわかりやすいです。
そこでまず、大、小菱形筋の解剖を整理してみましょう。
大菱形筋の起始部は、第1~4胸椎の棘突起であり、肩甲骨の内側縁に停止します。
小菱形筋の起始部は、第6~7頸椎の棘突起、項靭帯であり、肩甲骨の内側縁に停止します。
このふたつの大菱形筋、小菱形筋は、脊柱から外側下方の肩甲骨に向かって走行し、上部に小菱形筋、下部に大菱形筋が並走するように位置しています。
触診する部位は、脊柱と肩甲骨の内側縁との間で僧帽筋の深層に、大菱形筋と小菱形筋をそれぞれ触知することができます。
大菱形筋、小菱形筋ともに肩甲骨に対する作用は同様であり、肩甲骨の内転、挙上、下方回旋作用を有します。
では、この起始部/停止部、肩甲骨に対する作用を踏まえ、大、小菱形筋のストレッチングの方法について考えてみたいと思います。
前回、筋の作用とは、反対方向への運動を他動的に誘導することで、筋は伸長位となり、ストレッチングができると話をしました。
例えば、肩甲骨を外転方向(脊柱から離れる方向)へ誘導すると、肩甲骨の内側に位置する筋は伸長されます。
そのため大、小菱形筋は、肩甲骨の内転、挙上、下方回旋作用を有するため、肩甲骨の外転方向の誘導に加え、下制、上方回旋を誘導することで、最も伸長負荷が加わると考えられます。
ここまで、大、小菱形筋に対するストレッチングを整理したところで、僧帽筋の上部線維との違いを確認してみましょう。
大、小菱形筋の作用は、肩甲骨の内転、挙上、下方回旋であり、僧帽筋の上部線維の作用は、肩甲骨の内転、挙上、上方回旋です。
二つの筋の違いは、肩甲骨の上方回旋および、下方回旋といった回旋方向が異なることです。
・大、小菱形筋は、肩甲骨の外転方向の誘導に加え、下制、上方回旋を誘導することで伸長位となります。
・僧帽筋の上部線維は、肩甲骨の外転方向の誘導に加え、下制、下方回旋を誘導することで伸長位となります。
このように肩甲骨を誘導する回旋方向を変化させることで、各々の筋に適切なアプローチができます。
また、一つの筋へのアプローチではなく、二つの筋に対するアプローチを比較すると抵抗感や可動範囲の違いを感じることができ、治療を受けている人も、その違いを明確に感じることができ、効果的なストレッチングに繋がると考えられます。
楠 貴光先生
園部病院リハビリテーション科
神戸リハビリテーション福祉専門学校理学療法学科 臨床講師
上肢機能に関する学会・論文発表が多数
臨床と研究を組み合わせて高いリハビリテーション効果を出している若手臨床家