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PT楠貴光の臨床家ノート 肩甲骨の機能を運動学的に考える その8

臨床の理学療法場面で、肩甲胸郭関節上での肩甲骨の動きを生じさせるのは、肩甲骨周囲筋の筋活動だけではありません。

基本的な知識として、肩甲骨の運動には、僧帽筋上部、中部、下部線維や前鋸筋、大・小菱形筋、小胸筋、広背筋、肩甲挙筋などの肩甲骨周囲筋が、運動方向に対応して主動作筋として活動すると知られています。

一方、三角筋拘縮患者についての症例報告論文では、短縮している三角筋の張力によって肩甲骨が前傾、外転、下方回旋方向に引き出されることで、肩甲骨肢位を変化させるとされています。

そのため肩甲骨運動は、主動作筋の筋活動だけではなくても、肩甲骨より遠位に位置し、肩甲骨に付着部を有する筋の影響によって、肩甲骨の肢位変化や動きが生じることがあると考えられます。

このような視点で、脳血管障害片麻痺や肩関節周囲炎の患者の上肢挙上動作を見てみますと、同様の現象が多く存在します。

一度、上肢挙上動作において肩甲骨運動を評価する際のポイントを整理します。

上肢下垂位の状態から、肩甲骨下角や肩甲棘内側端の位置を触診し、その状態からゆっくりと上肢を側方へ挙上していきます。 

上肢下垂位からの肩甲骨下角や肩甲棘内側端の位置変化を追うことで、上肢挙上に伴う肩甲胸郭関節での肩甲骨の動きを評価することができます。

このように肩甲骨の動き方を評価することで、肩甲骨周囲筋の筋活動について、おおまかに把握することができます。

しかし、このとき注意が必要であるのは、常に肩甲骨周囲筋の筋活動のみで、肩甲骨の動きが生じているのではないという点です。

例えば、脳血管障害片麻痺や肩関節周囲炎の患者において、広背筋や大円筋のように腋窩後壁に位置する筋の伸長性低下がある場合には、肩甲上腕関節に外転、外旋の可動域制限が生じます。

そのため肩甲上腕関節での外転、外旋運動が制限されると肩甲骨に対して上腕骨が、側方挙上方向へ運動することが難しく、上腕骨の側方への挙上運動に合わせて、肩甲骨が過度に上方回旋方向へ引き出されるように動くことがあると考えられます。

よって、肩甲骨運動を評価する際には、肩甲胸郭関節上での肩甲骨の動きを把握するだけでなく、動きに対応した肩甲骨周囲筋の筋活動が生じているのか否か、筋の触診も合わせておこなうことを習慣づける必要があります。

投稿者
楠 貴光先生

六地蔵総合病院 リハビリテーション科
上肢機能に関する学会・論文発表が多数
臨床と研究を組み合わせて高いリハビリテーション効果を出している若手臨床家