PT楠貴光の臨床家ノート 肩甲骨の機能を運動学的に考える その26 体幹側屈と上肢機能
体幹の傾斜や側屈により、空間的な肩甲骨の上方回旋角度や肩甲上腕関節の運動は変化します。
そのため姿勢と肩甲骨機能の関係性を考えることは、非常に重要となります。
体幹が一側に傾斜が生じている場合、非傾斜側の肩甲骨は、空間上では上方回旋位となります。
この状態で、上肢を挙上していくと、肩甲上腕関節では屈曲に加えて外転方向の運動を伴い、上肢は肩甲骨面で挙上しているような状態となります。
ここまでのお話は、前回の『その25』でお話をさせて頂きました。
実際に体幹を傾斜させ、上肢を挙上していただくと、左右対称な姿勢や、左右非対称な姿勢での傾斜側の上肢、非傾斜側の上肢では、挙上のしやすさが異なるように体感できるとおもいます。
そこで今回は、さらに体幹の傾斜が肩関節周囲筋である三角筋の各線維の筋活動の変化にどのような影響を与えるのかを考えてみたいと思います。
体幹の傾斜に伴い非傾斜側の上肢では、肩甲骨は空間的に上方回旋位、肩甲上腕関節では屈曲に加えて外転方向の運動を伴うことから、上肢の挙上は比較的容易におこなうことができます。
しかしながら、上肢の挙上方向に位置する筋は、上肢の前方挙上の主動作筋である三角筋の前部線維ではなく、外転作用を有する三角筋の中部線維の筋活動が増大します。
これは、上肢の挙上方向に位置する筋が異なることから、このよう変化が生じると考えられます。
そのため、三角筋の前部線維の筋力強化、筋活動の促通を目的とする場合には、体幹が傾斜している状態で、上肢の挙上練習をしても効率的なトレーニングに繋がらないことを理解する必要性があります。
この三角筋の各線維の筋活動についても、体幹が傾斜していない状態での上肢挙上と体幹を傾斜させ、非傾斜側の上肢を挙上した際の三角筋の各線維の活動を触診で、比較して確かめて頂くことができます。
楠 貴光先生
園部病院リハビリテーション科
神戸リハビリテーション福祉専門学校理学療法学科 臨床講師
上肢機能に関する学会・論文発表が多数
臨床と研究を組み合わせて高いリハビリテーション効果を出している若手臨床家