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PT楠貴光の臨床家ノート 肩甲骨の機能を運動学的に考える その19 肩甲挙筋の筋緊張が亢進する理由と、肩甲骨運動への影響について

患者さまや利用者さまが、『肩が重だるい』、『よく肩が張る』と訴えられる部位のひとつに、肩甲挙筋が挙げられるのではないでしょうか?

肩甲挙筋の付着部は、肩甲骨上角であり、内側上方に向けて走行し、脊柱に付着することから、肩甲骨への作用に加え、頭部の肢位保持に作用すると考えられます。

肩甲挙筋は肩甲骨を挙上する作用のみでなく、肩甲骨が固定されている状態では、頭部を伸展させるように作用します。

臨床のリハビリテーション場面で見られる円背姿勢を呈するような症例さまでは、胸腰部が屈曲することで体幹に対して、頭部が前方に位置する状態になります。

このような姿勢により、肩甲挙筋は頭頚部の伸展作用として、頭部の肢位保持への活動が続くことで、肩甲挙筋の筋緊張は亢進すると考えられます。

よって、『肩が重だるい』、『よく肩が張る』というような現象に繋がると考えられます。

ここで、頭部の肢位保持に肩甲挙筋が作用している状態では、肩甲骨運動にどのような影響を及ぼすのかを考えていく必要があります。

肩甲挙筋の筋緊張亢進により、肩甲骨側の付着部である肩甲骨上角を内側上方の脊柱側に引き付けるようすると考えられるため、肩甲骨の外転方向への動き(脊柱から肩甲骨が離れようとする動き)が、生じにくくなると予測されます。

この場合、上肢を挙上しようとした際、肩甲骨の外転方向への動きが阻害されることから、肩甲骨の外転を伴いながら上方回旋させる前鋸筋の筋活動も生じにくくなると考えられます。

肩甲骨が外転方向へ動きが少なくなると、肩甲骨の内側に位置する菱形筋も伸長位となる機会は少なくなり、筋は短縮位となります。

慢性的に、このような肩甲骨の運動への影響が続くことで、肩甲挙筋のみではなく、前鋸筋や菱形筋も筋活動も少なくなり、二次的な問題に繋がると考えられます。

今回は、主に肩甲挙筋について考えてみましたが、肩甲骨機能や肩甲骨周囲筋の活動と、頭部や体幹機能との関係性を踏まえて考えてみることで、さまざまな現象を解釈することができます。

 

楠 貴光先生

園部病院リハビリテーション科
神戸リハビリテーション福祉専門学校理学療法学科 臨床講師
上肢機能に関する学会・論文発表が多数
臨床と研究を組み合わせて高いリハビリテーション効果を出している若手臨床家