PT楠貴光の臨床家ノート 肩甲骨の機能を運動学的に考える その9
前回は、肩甲骨周囲筋の筋活動のみだけでなく、肩甲上腕関節の可動域制限によっても肩甲骨運動が生じる可能があるとお話をさせて頂きました。
今回も、肩甲骨運動の主動作筋の筋活動以外が、肩甲骨の動きに与える影響を考えてみましょう。
日常生活を思い返すと、手を前に伸ばす動作、前の物をとるような動作では、肩関節や肩甲骨運動のみならず、肘関節の運動も伴います。
どのような運動が肘関節では、生じているだろうか?
肘関節は、運動の開始ではわずかに屈曲し、その後伸展していきます。
ここで着目してほしいのが、肘関節の伸展運動に関与し、肩甲骨に付着部をもつ上腕三頭筋長頭の筋活動です。
私は以前に、上肢を挙上位で動かないよう固定し、上腕三頭筋に電気刺激を加えることで、上腕三頭筋の筋収縮による肩甲骨の肢位変化を検討しました。
その結果、上腕三頭筋の筋収縮が生じることによって、上腕三頭筋長頭の付着部である関節下結節が、もう一方の付着部である肘頭のほうに引き出されることで、肩甲骨では外転、上方回旋方向への肢位変化を認めておりました。
この結果を持って、脳血管障害片麻痺や前鋸筋麻痺患者に対する治療を考えると、前鋸筋の筋緊張、筋力の低下によって、肩甲骨の外転、上方回旋が困難な場合には、上腕三頭筋の筋収縮を促すことがポイントになると考えられます。
例えば、前鋸筋の筋活動を促す際、上肢の前方へのリーチ動作練習を自動介助運動にておこない、このとき上腕三頭筋長頭の筋収縮によって肘関節伸展を誘導することで、肩甲骨の外転、上方回旋方向への運動が円滑に促通することができると考えます。
様々な視点から、治療を考えることで普段の臨床がより良いものになると考えます。
投稿者
楠 貴光先生
六地蔵総合病院 リハビリテーション科
上肢機能に関する学会・論文発表が多数
臨床と研究を組み合わせて高いリハビリテーション効果を出している若手臨床家