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PT楠貴光の臨床家ノート 肩甲骨の機能を運動学的に考える その7

今回は、実際に臨床の患者さまでは、どのような肩甲骨の機能に問題点を持つことが多いか、その特徴を運動学的に考えてみましょう。 

上肢の前方挙上動作を例にあげると、正常動作では、肩関節の屈曲運動とともに、肩甲胸郭関節上で肩甲骨が上方回旋方向に動く必要があります。 

しかしながら、脳血管障害片麻痺患者さまでは、上肢の前方挙上動作時に肩甲胸郭関節上で、肩甲骨が上方回旋とともに挙上方向に大きく動くことがあります。 

肩甲骨の機能を運動学的に評価するには、肩甲骨の動きを現象として捉え、実際に運動する関節を明確にする必要があり、さらには肩甲骨以外の機能との関連性も考えていく必要があると以前にお話をさせて頂きました。 

では、脳血管障害片麻痺患者様の上肢の前方挙上動作を想像してみましょう。 

まず、座位姿勢に着目すると、胸腰部が屈曲位、股関節の屈曲角度の乏しさから麻痺側優位に骨盤は後傾位を呈しているような症例が多いと考えられます。 

座位姿勢の影響を受け、麻痺側の肩甲骨は空間的に前傾、外転、上方回旋位を呈することがあります。 

このような肩甲骨肢位では前鋸筋は短縮位となり、長期的に経過すると筋緊張の低下が生じると予測されます。 

前鋸筋に筋緊張の低下が生じると肩鎖関節を軸とした肩甲骨の上方回旋が困難になります。 

そのため上肢の前方挙上時には肩関節の屈曲運動とともに、僧帽筋上部線維の筋活動が過度となり、胸鎖関節を軸として鎖骨の挙上にともなう肩甲骨の上方回旋が生じやすくなると考えられます。 

結果、肩甲胸郭関節上で肩甲骨は、上方回旋とともに挙上方向の動きを大きく伴うと考えられます。

ここまでの話だけでも、肩甲骨機能としては、僧帽筋上部線維の過度な筋活動による肩甲骨の上方回旋に伴う大きな挙上方向への動きを抑制するために、肩鎖関節での肩甲骨の上方回旋を上手く生じさせるための前鋸筋の筋活動を促通する必要があると評価できます。 

さらには、座位姿勢の問題によって肩甲骨が空間的に前傾、外転、上方回旋位を呈するのであれば、体幹機能では多裂筋や最長筋などの筋緊張の問題、股関節機能では腸骨筋や大殿筋の筋緊張の問題を充分に評価していく必要があると仮説を立てることができます。

 今回は、肩鎖関節と胸鎖関節の関係性や、肩甲骨機能と体幹・股関節機能の関係性の一例の一部をお話しました。 

まだまだ詳細に評価していくことで、多くの仮説やストーリーを立てることができ、さまざまな可能性を考えることで臨床での肩甲骨機能の評価が広がってきます。

投稿者
楠 貴光先生

六地蔵総合病院 リハビリテーション科
上肢機能に関する学会・論文発表が多数
臨床と研究を組み合わせて高いリハビリテーション効果を出している若手臨床家