せん妄の基礎知識
疾患や薬の影響などにより、一時的に意識障害や認知機能の低下が生じている状態が“せん妄”です。
状態が落ち着くまでには、2週間から1か月程度を要すると言われています。
せん妄では注意と意識の障害により
「過活動や興奮(例:活動量増加、抑制の欠如、徘徊、幻覚、妄想など)」
「低活動(例:活動量や行動速度の減少、周囲への認識低下、会話の量や速度の減少、無気力、覚醒度低下など)」
といった状態になります。
この2つに加え、24時間以内に過活動と低活動の両方が認められる混合タイプのせん妄も存在します。
せん妄は若年者と比べて高齢者が起こしやすく、手術後は50%超、ICUで治療を受けた場合70%〜80%の高齢者がせん妄になるとも言われています。
また、認知機能障害や頭部疾患の既往歴がある方、過去にせん妄を起こしたことがある方も、発生リスクが高いと言われています。
具体的な発生要因は、以下があげられます。
(単一でも発生させ得る要因)
『中枢神経作用薬(抗精神薬)、抗パーキンソン病薬、抗うつ薬、睡眠薬、抗けいれん薬、ステロイド、オピオイド、抗ヒスタミン薬、抗がん剤、抗生物質、気管支拡張剤、降圧剤、頻尿改善薬などの摂取』
『アルコール、覚せい剤などの摂取や離脱』
『中枢神経疾患』
『全身性疾患(代謝性疾患、内分泌疾患、循環器疾患、呼吸不全、血液疾患、 重度の外傷・熱傷、悪性腫瘍)』
(複数が重なることで発生させ得る要因)
『疼痛、便秘、尿閉、脱水、ドレーンなどの留置、視力・聴力低下といった身体的要因』
『抑うつ、強い不安』
『環境変化(入院、転居など)』
『睡眠不良、昼夜逆転』
寺田整司:高齢者せん妄の薬物治療:日本老年医学会雑誌第51巻5号,2014.9
せん妄は直接死に関わるものではありませんが、高齢者や認知症の方がせん妄を起こした場合の死亡率や、自宅退院が困難になる確率が高まると言われています。
認知機能についても、せん妄をきっかけとして顕著に低下するケースは少なくありません。
これらから、せん妄を起こすきっかけとなった身体疾患も強く影響しており、せん妄が発生したということは脳や身体が大きなダメージを受けた可能性が高いと考えられるかもしれません。
全身状態の重篤化を防止するための状態確認や、薬物等の摂取・変更後の観察、大きな環境変化後の心理面ならびに行動の観察、夜間睡眠状況の確認などが、せん妄ならびにせん妄に関連する疾患や認知症進行の予防に繋がります。
投稿者
浅田 健吾先生
株式会社colors of life 訪問看護ステーション彩
平成21年に関西医療技術専門学校を卒業し、作業療法士の免許取得する。
回復期・維持期の病院勤務を経て、令和元年より株式会社colors of life 訪問看護ステーション彩での勤務を開始する。
在宅におけるリハビリテーション業務に従事しながら、学会発表や同職種連携についての研究等も積極的に行っている。
大阪府作業療法士会では、地域局 中河内ブロック長や地域包括ケア委員を担当しており、東大阪市PT.OT.ST連絡協議会の理事も務めている。
平成30年からは、大阪府某市における自立支援型地域ケア会議に助言者として参加している。