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OT浅田健吾の臨床家ノート 自宅内移動時の支持ポイントについて~アフォーダンスの視点から~

先日、同僚の療法士による軽度認知症を呈する対象者の訪問に同行しました。

自宅内の移動はなんとか伝い歩きで可能ですが、既往の腰椎圧迫骨折も影響した姿勢不良により歩行時のバランスがやや不安定で、過去何度か自宅内で転倒されている方です。

担当の療法士は細かく評価をさせて頂いた上で、対象者とご家族に対して手すり設置の必要性が高い旨をお伝えしたようですが、「(自宅の)壁には穴をあけたくない」とのご返答だったそうです。

このご返答に対して、支持物が無く独歩せざるを得ないスペースに据え置きタイプの手すりを設置してはどうかと提案したものの、「あまりたくさんは置きたくない」とのご意向で玄関まわりにのみしか設置されず、居室・トイレ間の移動時における転倒リスクは残存したままで悩んでいる・・・との事でした。

 『移動時に支持物は必要だけど、諸事情により手すりを増やせないケース』は、在宅でよく遭遇すると思います。

今回の相談に対して私は、「まず(療法士は)何の指示出しも介助もせず、ご本人の視界にも入らず、“可能な限り普段通りに”居室とトイレの往復を数回繰り返してもらってください」と療法士に伝えました。

複数回移動を繰り返してもらった結果、居室とトイレの間における『ルートと手を伸ばす箇所』が分かりました。

これはつまり、対象者がその環境の中で選択するルートと支持ポイントを確認したという事です。この確認が済んだ上で、『アフォーダンス理論』という視点を用います。

アフォーダンスとは、ジェームス・ジェローム・ギブソンが用いた理論で、後にドナルド・アーサー・ノーマンによって少し意図を変えた形で世間に広められました。

ギブソンの理論を例えで表現すると、目の前に小さなスイッチがある場合「このスイッチと私には、“指先で押す”というアフォーダンスが存在する」となります。

つまり、「モノがヒトに対して行動のきっかけや意味を与える」という事であり、もっと簡単に言うと「環境によって、ついついそうさせられてしまう・したくなってしまう」という事です。 

ケースに話を戻すと、評価で明らかになった行動パターンをもとにして、対象者が手を伸ばしやすいポイントと手を伸ばしてほしいポイントに“よく目立つ蛍光シール”を貼りつけるとともに、支持物に対してのリーチが適切な距離で行えるように可能な範囲で支持ポイント(家具等)の配置を調整しました。諸々の調整後しばらくそのルートでの歩行練習を繰り返したところ、現在のところは危なげなく移動が行えているとのことです。

今回療法士が行った事を簡潔にまとめると、『対象者の行動パターンを確認した上で、そのパターンの適切さを増す為に、環境が本人にもたらすアフォード(与える・提供する)を強化した』という事になると思います。

『対象者(ヒト)と環境(モノ)との間にどのような関係が存在するか』を考えてみると、より良い環境設定に一歩近づくヒントが得られるかもしれませんね。

投稿者
浅田 健吾先生
株式会社colors of life 訪問看護ステーション彩

平成21年に関西医療技術専門学校を卒業し、作業療法士の免許取得する。
回復期・維持期の病院勤務を経て、令和元年より株式会社colors of life 訪問看護ステーション彩での勤務を開始する。
在宅におけるリハビリテーション業務に従事しながら、学会発表や同職種連携についての研究等も積極的に行っている。
大阪府作業療法士会では、地域局 中河内ブロック長や地域包括ケア委員を担当しており、東大阪市PT.OT.ST連絡協議会の理事も務めている。
平成30年からは、大阪府某市における自立支援型地域ケア会議に助言者として参加している。