肩甲骨機能と肩関節亜脱臼について
脳血管障害片麻痺患者さまの上肢機能においては、麻痺側の肩関節の亜脱臼が問題となるケースが多く見受けられ、肩関節周囲筋の筋緊張低下として、三角筋や棘上筋を主とした回旋筋腱板の機能低下が生じている場合があります。
肩関節の亜脱臼により、肩関節運動時に肩甲骨関節窩と上腕骨頭の位置が適切に保たれないことで、上肢の挙上に難渋すること、疼痛や可動域の制限の発生に繋がる可能性があると考えられます。
このような症例に対しては、麻痺側の肩関節周囲筋の筋緊張を改善するため、自動運動や介助下での上肢挙上やリーチ動作練習をおこない、筋緊張の促通を図ることが多いと考えられます。
また、動作練習をおこなう際には、上腕骨頭と肩甲骨関節窩の位置関係が適切に保たれるのかを確認し、肩甲骨機能についても合わせて評価する必要があります。
この肩甲骨機能の評価では、運動中の評価に加えて、上肢下垂位の姿勢にて、麻痺側の肩甲骨がどのような肢位であるのかを評価することが重要になります。
例えば、上肢下垂位から麻痺側の肩甲骨が内転位を呈している患者さまでは、上腕骨に対して、肩甲骨が内側後方に引かれるように位置することで、肩甲骨関節窩と上腕骨頭は離れ、肩関節の亜脱臼が助長される要因になると考えられます。
このように、肩甲骨関節窩と上腕骨頭が適切な位置を保てていない状態で、上肢の挙上やリーチ動作練習を開始しても、うまくいかないことは容易に想像できると考えられます。
そのため、肩関節の亜脱臼を呈する患者さまに対して、効率的に運動療法を展開するためには、上肢下垂位の肩甲骨肢位や肩甲骨関節窩と上腕骨頭の位置関係を充分に評価、治療したうえで、上肢の挙上やリーチ動作練習に展開していく必要があります。
例に挙げた患者さまに対しては、
まず、肩甲骨が内転位を呈する要因と考えられる大・小菱形筋の筋緊張亢進や前鋸筋の筋緊張低下の改善を図っていきます。
これにより、上肢下垂位における肩甲骨肢位や肩甲関節窩と上腕骨頭の位置関係、肩関節の亜脱臼の程度にどのような変化が生じるかを評価します。
そして、上肢下垂位の肩甲骨が適切な肢位にあることを確認したうえで、上肢の挙上やリーチ動作にて、肩関節周囲筋の筋緊張の促通を図る練習に繋げていただければと思います。
楠 貴光先生
園部病院リハビリテーション科
神戸リハビリテーション福祉専門学校理学療法学科 臨床講師
上肢機能に関する学会・論文発表が多数
臨床と研究を組み合わせて高いリハビリテーション効果を出している若手臨床家