PT楠貴光の臨床家ノート 肩甲骨の機能を運動学的に考える その10
小胸筋は、第3~5肋骨の前面から起始し、肩甲骨の烏口突起に停止します。
この小胸筋の作用は、肩甲骨の前傾、外転、下方回旋方向への動きに関与します。
そして肩甲骨が前傾、外転、下方回旋位を呈する機能障害としても、小胸筋の筋緊張亢進や伸張性の低下が一つの要因として挙げられます。
リハビリテーション場面では、小胸筋に対してストレッチングをおこない、筋緊張の抑制や伸張性の向上を図る機会が多いのではないだろうか。
この小胸筋に対するストレッチングは、どんな意味をもつか、おさらいしてみましょう。
上腕骨骨折の保存療法や術後療法では、患側上肢の三角巾固定を強いられる場合があり、脳血管障害片麻痺患者においても、麻痺側の上肢が弛緩性麻痺を呈する場合があります。
このような場合、肩甲骨が前傾、外転、下方回旋位を呈し、小胸筋が常に短縮位となることで、筋緊張の亢進や伸長性低下が生じることが多くあります。
この小胸筋の機能障害によって、上肢の前方挙上動作の最終域での肩甲骨の動きが、大きく制限されます。
上肢の前方挙上動作の最終域では、肩甲骨が後傾、内転、上方回旋方向へ動く必要があります。
小胸筋の作用が肩甲骨の前傾、外転、下方回旋であるので、この上肢の前方挙上動作の最終域での肩甲骨の動きと、正反対であること分かります。
そのため、上肢の前方挙上動作の獲得を目標とする際には、小胸筋の機能に対する評価や、小胸筋の筋緊張亢進や伸張性低下が生じないための工夫・治療介入が必要になります。
リハビリテーションで多くみられるような場面を、運動学・解剖学の知識で、改めて整理することで、適切な治療介入に繋がると考えられます。
投稿者
楠 貴光先生
六地蔵総合病院 リハビリテーション科
上肢機能に関する学会・論文発表が多数
臨床と研究を組み合わせて高いリハビリテーション効果を出している若手臨床家