認知症を呈する方に多く見られるアパシーについて
認知症を呈する方に生じる行動・心理症状(BPSD)は様々ですが、その中でもアパシー(無関心・無気力な状態)は、Neuropsychiatric inventoryというBPSDを測定する検査を用いた研究で、30~80%の患者で出現する非常に頻度が高い症状であると言われています。
アパシーは、これまで習慣的に取り組んでいたことや身の回りのことなどにおいて、「やろうと思えばできるはずなのに、やる気が起こらず実行できない」という状態です。
数日ばかり先送りにしてしまうことは、認知症に関わらず誰でもありえますが、これが長期的に続いてしまうと心身機能や日常生活に悪影響が生じ、重度化すると感情の平板化やコミュニケーションの取りづらさにもつながります。
このアパシーは、物忘れや徘徊、暴力といった症状とは異なってやや目立ちにくく、周囲がなかなか気付きにくいといった傾向にあります。
また、うつ病とは異なり気分が落ち込んで悲観的になるのではなく一定の気分を保つので、病的な扱いをされず「やる気が無いだけ」「怠けている」と認識されてしまうこともあります。
アパシーに対するアプローチとしては、「生活リズムの再構築」「(自分で)できることは行い続ける」「薬物治療」などがあります。
「生活リズムの再構築」では、自発的に物事に取り組むことが苦手となっているご本人に対して「メリハリをつけて規則正しく生活しなさい」とただ声かけをするのではなく、ご本人が元々持っていた習慣や生活環境等を考慮して、起床から就寝までの1日(もしくは1週間単位で曜日別)のスケジュール表を作成すると良いでしょう。
ご本人の状態によっては、そのスケジュール表の時間あわせた声かけ・促しが必要となる場合もあります。
最近ではAI機器を使用した音声サービスで、設定した時間ごとにスケジュールを知らせるといった手段を用いるご家庭も増えています。
「(自分で)できることは行い続ける」については、ご家族やサービス提供者がついついしがちな過介助を避けるということです。
せっかく自分でやろうと思える・できることがあるのにも関わらず、その作業の機会までご本人から取り上げてしまうことは、やろうと思えない・できないことを増やすことにつながります。
対象者の方のできること・できないことを分析できる療法士が介入しているケースであれば、できることを具体化(どこであれば・どうすれば・どこまでできるか?)し、その理由(なぜできる・できないか?なぜする必要があるか?)を添えて周囲に発信すると良いでしょう。
「薬物治療」については、抗認知症薬(コリンエステラーゼ阻害薬)が使用されることもあります。
医師が処方するタイミングを図りやすいよう、自宅での状況と、その推移(いつからどの程度の期間で、どういう状態になったか)を丁寧に報告しましょう。
アパシーは認知症以外にも脳血管疾患やパーキンソン病等でも生じ得ると言われています。
放置して重度化した後ではなかなか対応に苦慮することが多いので、早期の段階から進行防止に取り組む必要があります。
一方で、周囲の心配が先走りして対策が詰め込まれ過ぎないよう、ご本人の思いやペースが中心であることを忘れず心がけましょう。
投稿者
浅田 健吾先生
株式会社colors of life 訪問看護ステーション彩
平成21年に関西医療技術専門学校を卒業し、作業療法士の免許取得する。
回復期・維持期の病院勤務を経て、令和元年より株式会社colors of life 訪問看護ステーション彩での勤務を開始する。
在宅におけるリハビリテーション業務に従事しながら、学会発表や同職種連携についての研究等も積極的に行っている。
大阪府作業療法士会では、地域局 中河内ブロック長や地域包括ケア委員を担当しており、東大阪市PT.OT.ST連絡協議会の理事も務めている。
平成30年からは、大阪府某市における自立支援型地域ケア会議に助言者として参加している。