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PT楠貴光の臨床家ノート 肩甲骨の機能を運動学的に考える その22 他動運動での肩関節の関節可動域練習について

腱板断裂の術後のような急性期のリハビリテーションでは、主治医からの指示として、自動運動は許可されず、他動運動での関節可動域練習のみを許可されることがあると思います。

実際に、運動療法場面では過剰な筋収縮が生じることにより、思うような他動運動ができない場合や痛みを伴ってしまうことも多くあるのではないでしょうか。

過剰な筋収縮が入るのは、初めて動かされる怖さがあるから?

患者さまが力を抜くことができないから?

これらのことが、問題なのでしょうか?

過剰な筋収縮や疼痛が生じてしまう原因を解決するためには、以下のポイントが重要になると考えています。

1.患者さまへの触れ方は、適切であるか。

患者さまが不快に思うような触れ方になってはいけません。
また、セラピストが自信を持てず、恐れるように触れてしまうと、その不安感は手を介して患者様に伝わります。
セラピストの手は、手掌面全体での接触を基本として、圧も均等になるように意識をしてみましょう。
また、自信をもって誘導するためにも、基本的な解剖学、運動学の知識が重要になります。

2.しっかり上肢を介助できているか。

他動運動をおこなうには、患者様の上肢の重さをしっかりと介助し、誘導する必要があります。
患者様の上肢の重さよりも少ない介助量であれば、筋収縮が生じてしまいます。
また、介助量が多い場合には、過剰な牽引負荷が加わってしまう場合があることに注意し、適切な介助量を見極めることが重要です。
一側の上肢の重さは、体重の8%ほどであることを念頭に置き、運動を誘導する介助の量についても意識すると良いです。

3. 治療をおこなう際の姿勢に配慮ができているか。

姿勢と肩関節の運動方向や角度によって、運動の負荷が変化することがあります。
例えば、側臥位での肩関節屈曲運動を誘導する際には、肩関節は上肢の重みにより水平内転方向への運動が生じやすいため、その制動として水平外転作用を有する筋の収縮が生じやすいことを念頭に置く必要があります。
また、側臥位は、背臥位に比べると、体幹と治療台との接触面積が少ないことから、体幹部の運動も伴いやすいと考える必要があります。
一方、背臥位での肩関節屈曲運動は、90°を境に、抗重力方向への運動から従重力方向への運動へと切り替わり、肩関節の屈曲運動に加わる負荷が異なる点を理解する必要があります。
ほかにも、姿勢の変化による筋活動の相違は多くあります。
それぞれの姿勢の利点・欠点を理解して、患者様の機能に応じた適切な姿勢を選択する必要があります。

4.正常な関節運動を理解し、誘導できているか。

当然ですが、正常な関節軸を理解し、関節包内運動を誘導しないと、過剰な筋収縮や疼痛が発生につながります。
ただ、単に体幹部に対して、上肢を動かすのではなく、肩関節の構造、機能をイメージしながら他動運動をおこなう必要があります。

・運動軸をしっかりと捉えることができているか?

・正常な関節包内運動を誘導できているか?

・どの組織にどのような力学的負荷が加わるか?

今回は、4つの注意点をあげましたが、他にも注意すべき点は多くあります。

何気ないことですが、ひとつひとつ工夫をすることで、うまく他動運動が誘導できるといった変化を感じられます。

 

楠 貴光先生

園部病院リハビリテーション科
神戸リハビリテーション福祉専門学校理学療法学科 臨床講師
上肢機能に関する学会・論文発表が多数
臨床と研究を組み合わせて高いリハビリテーション効果を出している若手臨床家