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PT楠貴光の臨床家ノート 肩甲骨の機能を運動学的に考える その18

上肢の前方挙上が困難な症例について考えてみましょう。

上肢の前方挙上時には、肩関節機能として、『肩甲上腕関節の屈曲運動の質の評価』や『肩甲胸郭関節での肩甲骨の運動については、肩鎖関節、胸鎖関節の機能、肩甲帯周囲の筋機能の評価』をおこなうと考えられます。

また、これに加えて『上肢の前方挙上に伴う体幹や下肢機能』についても評価・治療をおこなう必要があると考えられます。

例えば、拘縮のあった患側の肩関節の可動域制限や筋力の問題が理学療法の経過とともに改善してきたとします。

その後の経過では、一回の運動療法場面では改善するが、次回のリハビリテーション時には、また元の状態に戻ってしまうような症例や、自動運動・他動運動ともに左右差がなくなってきたにも関わらず、もう少しのところで完全挙上までに至らないような症例を担当した経験はありませんか。

このような時にこそ、肩甲上腕関節や肩甲胸郭関節の評価のみではなく、体幹や下肢機能に着目してください。

・座位や立位姿勢保持時から、脊柱に側弯や円背姿勢などのような、アラインメント不良はないか。

・上肢の挙上とともに胸腰部の伸展や側屈する可動性や最長筋や多裂筋の筋機能は充分にあるか。

胸腰部の肢位変化の影響を受けた場合、体幹部から肩甲骨や上腕骨に付着する筋の筋活動は大きく変化します。

たとえば、胸腰部の屈曲や側屈にともなって、上肢の重みによって肩甲骨が前傾位を呈した場合、肩甲骨前傾作用を有する小胸筋は、短縮位にて伸張性が乏しくなると予測されます。

また、胸腰部が側屈側の広背筋は、胸腰部側屈筋として姿勢保持に作用することに加え、肩甲帯下制筋や肩関節伸展筋として、上肢の前方挙上を制動しようと働く可能性があると考えられます。

そのため上肢前方挙上動作の改善に難渋した場合、肩関節や肩甲骨機能のみではなく、一度、姿勢と上肢機能の関係性について評価することで、解決できる問題もあると考えられます。

楠 貴光先生

園部病院リハビリテーション科
神戸リハビリテーション福祉専門学校理学療法学科 臨床講師
上肢機能に関する学会・論文発表が多数
臨床と研究を組み合わせて高いリハビリテーション効果を出している若手臨床家