ブログ詳細

Blog List

PT楠貴光の臨床家ノート 肩甲骨の機能を運動学的に考える その13

臨床のリハビリテーションでは、上肢機能の向上を図る際の動作練習として、座位で両手を挙上し、前方に伸ばすような練習をすることは、多くあるのではないでしょうか。

この動作練習の遂行時の体幹、股関節の運動と筋活動を整理してみます。

正常動作では、両上肢を挙上する時の肩関節や肩甲骨運動とともに胸腰部の伸展が生じ、このとき最長筋や多裂筋が活動します。

そして、前方へ手を伸ばそうとすると、股関節屈曲により体幹が前傾することで手部を前方へ移動させ、さらに胸腰部では伸展が増大します。

このとき、さらに最長筋や多裂筋の筋活動が増大するとともに、股関節肢位(屈曲位)の保持として、大殿筋が活動します。

このように関節運動と筋活動を整理することで、上肢運動に伴う体幹や股関節機能が把握できます。

多裂筋や最長筋、大殿筋の筋活動は、正常動作での上肢挙上動作の獲得にとって、重要であるため、上手く行うことで非常に良い動作練習となります。

では、両側多裂筋に機能障害を有する患者さまが、同様の動作練習をおこなうと、どのような動作になるか考えてみましょう。

座位姿勢は、多裂筋の筋力、筋緊張の低下により、腰椎後弯の増大に伴い骨盤が後傾位を呈し、相対的に股関節の屈曲角度が減少すると予測できます。

そして、実際に両上肢を前方へ挙上していく際には、胸腰部の伸展が充分に生じず、両上肢の挙上に伴った上肢質量の前方変位に対して、胸腰部の肢位保持が困難となり、胸腰部のなかでも、特に腰椎の後弯が増大すると考えられます。

さらに、前方へ手を伸ばそうとすると、肩関節運動とともに、さらに胸腰部での屈曲を増大させ、何とか、前方に手を伸ばそうとする動作が観察されると考えられます。

このように動作中を通して常に胸腰部屈曲が増大するは、肩甲骨が空間的に前傾位となることや、胸腰部の肢位保持に僧帽筋や肩甲挙筋の活動が参加することから、充分な肩甲骨の運動を作ることが困難になると考えられます。

そのため、上肢機能の向上を目的に動作練習をおこなう際においても、その特性に応じた体幹筋や股関節周囲筋の筋活動の理解や、肩関節、肩甲骨機能以外の機能障害との関係性を考え、課題の設定を行おこなうことが、より良い運動療法の展開に繋がると考えます。

投稿者
楠 貴光先生

園部病院リハビリテーション科
神戸リハビリテーション福祉専門学校理学療法学科 臨床講師
上肢機能に関する学会・論文発表が多数
臨床と研究を組み合わせて高いリハビリテーション効果を出している若手臨床家