PT楠貴光の臨床家ノート 肩甲骨の機能を運動学的に考える その12
肩甲骨機能と体幹の関係性について考えてみましょう。
臨床のリハビリテーション場面では、胸腰部が屈曲し、いわゆる円背姿勢を呈する高齢の患者さまや脳血管障害片麻痺患者さまを多く見受けるのではないでしょうか。
このように胸腰部の肢位の影響を受けて、肩甲帯が屈曲位(肩甲骨は前傾位)を呈することが多くあります。
また、実際に肩甲骨の動きが生じていない場合でも、体幹部の運動や傾斜により、空間上での肩甲骨の傾きが生じることがあります。
例えば、胸腰部の屈曲や体幹を前傾すると、肩甲骨も空間的に前傾します。
反対に、胸腰部の伸展や体幹を後傾すると、肩甲骨も空間的に後傾します。
そのため理学療法では、上肢挙上動作時の肩甲骨運動を評価することは重要であることに加え、このような空間的な肩甲骨の傾きを作り出す、体幹機能との関係性を評価する必要があります。
これまで私が検討してきたなかでは、上肢挙上に伴う体幹部の運動の特徴として、以下のことが分かりました。
・一側の上肢を前方挙上保持する際には、胸腰部では伸展および非挙上側への側屈が生じる。
・両側の上肢を前方挙上保持する際には、胸腰部では伸展のみが生じ、これは一側の上肢前方挙上保持と比較すると大きい。
・さらに、上肢挙上時の体幹筋の活動として、胸腰部の伸展および側屈作用を有する最長筋、多裂筋、腸肋筋の筋活動を詳細に見てみると、両課題では各筋の活動パターンは異なる。
このような検討結果の特徴からも、肩甲骨機能と体幹との関係性を考え、症例の動作の個別性に合わせた評価が必要であると考えられます。
次回は、上肢挙上時の体幹部の運動の特徴について、臨床でよく見られる具体例を挙げ、考えていきたいと思います。
引用文献:両側および一側上肢前方挙上保持角度変化が体幹背面筋の活動と脊柱運動に及ぼす影響について.楠 貴光・他:理学療法科学33(1):101-107, 2018.
投稿者
楠 貴光先生
園部病院リハビリテーション科
神戸リハビリテーション福祉専門学校理学療法学科 臨床講師
上肢機能に関する学会・論文発表が多数
臨床と研究を組み合わせて高いリハビリテーション効果を出している若手臨床家