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PT楠貴光の臨床家ノート 肩甲骨の機能を運動学的に考える その15

大胸筋を鍛えるトレーニングといえば、ベンチプレスを想像するのではないでしょうか。

ベンチプレスでは、肩関節が水平内転および水平外転方向に運動します。

大胸筋は、肩関節水平内転時の主動作筋として、さらには肩関節の水平外転方向へ加わる負荷に対して作用することで大きな筋収縮が生じます。

また日常生活場面において、肩関節を水平内転する動作としては、反対側の肩に手を伸ばし洗体する動作や、食事の際に正中線を越えて内側方向に手を伸ばす動作などがあり、ベンチプレスのような高負荷の運動でなくても、背臥位や座位姿勢で肩関節を水平内転する際に大胸筋が活動します。

この肩関節の水平内転では、肩甲上腕関節での水平内転運動とともに肩甲骨は胸郭上を外転や内旋方向への運動が生じます。

これまでの研究で、座位での肩関節水平内転運動時の大胸筋の筋活動を考える際には、水平面において肩甲骨面と上腕骨長軸の位置関係を把握することがポイントになるとわかりました。

結果、肩関節水平内転60°位以降の水平内転角度で、大胸筋鎖骨部線維が活動しました。

これは、肩甲骨面と上腕骨長軸の位置関係が水平内転位となる際に大胸筋鎖骨部線維の筋活動が増大したということを意味します。

座位での肩関節水平内転運動をおこなうと、水平屈曲60°位を境として、大胸筋鎖骨部線維の筋活動がonoffと切り替わり、触診でも簡単に確認することができます。

よって、座位での肩関節水平内転では、全ての角度で大胸筋鎖骨部線維の積極的な筋活動が生じるのではないということになります。

この研究の結果を裏返すと、肩甲骨の外転や内旋運動が生じにくい症例においては、積極的な肩甲上腕関節での水平内転運動が全ての運動範囲で必要となり、常に大胸筋鎖骨部線維の筋活動が生じることになります。

このような大胸筋の筋活動と肩甲骨機能の特徴をもって、さまざまな症例の上肢・肩甲骨機能について考えることで見えてくる問題も多くあると考えます。

文献:楠 貴光・他.肩関節水平屈曲角度変化が大胸筋の筋電図積分値に及ぼす影響.関西理学.1545-48,2015.

楠 貴光先生

園部病院リハビリテーション科
神戸リハビリテーション福祉専門学校理学療法学科 臨床講師
上肢機能に関する学会・論文発表が多数
臨床と研究を組み合わせて高いリハビリテーション効果を出している若手臨床家