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PT楠貴光の臨床家ノート 肩甲骨の機能を運動学的に考える その14

脳血管障害片麻痺患者において、大胸筋の筋緊張亢進により、上肢を挙上やリーチする際には、肩関節の屈曲に内旋や内転運動を伴うような症例が多いです。

上腕骨骨折後や肩関節周囲炎の患者に対する運動療法場面においても、大胸筋の伸張性低下が問題となり、ストレッチングをおこなう機会が多いのではないでしょうか。

このように大胸筋は、上肢機能の改善を図る際に、治療対象となることが多い筋のひとつです。

しかし、大胸筋は、肩関節屈曲運動の主動作筋であるため、その筋活動の特性について、しっかりと考えていく必要があります。

そこで今回は、この大胸筋の機能について整理してみたいと思います。

大胸筋は、鎖骨の内側1/2から起始する鎖骨部線維と、胸骨と第2から7肋軟骨から起始する胸骨部線維、腹直筋鞘の前葉から起始する腹部線維の3つの線維に分けられ、それぞれ上腕骨の大結節稜に停止します。

それぞれの筋線維は、停止部である上腕骨の大結節稜から、鎖骨部線維は内側上方に、胸骨部線維は水平方向に、腹部線維は内側下方に向かって走行するので、各線維の筋走行をイメージして触り分ける必要があります。

大胸筋の作用は、肩関節の屈曲、内転、内旋、水平内転ですが、それぞれの筋線維によって、肩関節運動への関与が異なります。

例えば、大胸筋の各線維の肩関節屈曲運動時の筋活動について、Inmanは、以下のように報告しています。

・鎖骨部線維の筋活動は、肩関節屈曲作用として肩関節屈曲0°から115°位にかけて漸増し、その後の角度では漸減する。

・胸骨部線維は、わずかに肩関節屈曲0°から140°位までの範囲で活動する。

・腹部線維は、すべての肩関節屈曲角度で活動が少ない。

この報告からも、肩関節屈曲運動中の筋活動は、3つの線維で一様ではないことがわかります。

さらに、肩関節屈曲運動の主動作筋といわれる鎖骨部線維においても、肩関節屈曲の全運動範囲で活動するのではなく、肩関節屈曲115°位以上の角度では、徐々に筋活動が減弱する必要があります。

これをもって、大胸筋の筋緊張の抑制/減弱、伸張性の向上を目的にストレッチングする際には、各々の線維ごとに、積極的な筋活動が必要な時期、積極的に活動せずに筋活動が減弱する時期を明確にし、介入することが重要となります。

次回は、この大胸筋の機能について整理し、さらに知識を深めるため、大胸筋と肩甲骨機能との関係性について考えていきたいと思っています。

 

参考文献:Inman VT,et al:Observation on the function of the shoulder joint. JBJS 26-A:1-30.1944

投稿者
楠 貴光先生

園部病院リハビリテーション科
神戸リハビリテーション福祉専門学校理学療法学科 臨床講師
上肢機能に関する学会・論文発表が多数
臨床と研究を組み合わせて高いリハビリテーション効果を出している若手臨床家