PT山口剛司の臨床家ノート その13 膝疾患患者の足の評価
これまでは足の機能評価を行う際のポイントについて、述べてきましたが、一つ症例を挙げながら考察してみましょう。
右膝関節に障害のある40代の女性についてです。今年1月に右膝の不調により、関節鏡視下で滑膜の切除を実施したケースで、普段は介護職をしています。
職業柄、しゃがみ動作が多く、膝に大きな負荷が生じることが多いと推測されます。
それで以前はトレーニングを積極的に行っていましたが、最近は仕事が忙しくトレーニングができず、体重が5㎏増加したとのことです。
以上の情報だけでも、膝にとって悪い影響は色んな要因が考えられますが、一番簡単な指導としては、体重を減らして筋力をつけることです。
しかもこれが早期に実現できれば、最も早く機能改善していくと考えられますが、体重を落とすのは、なかなか至難の業です。
ここでセラピストが考えるべきことは、効率の良い運動をさせるのにどのように導けば良いかです。
その評価としては、まずどんな動作が困っているかを把握することから始まります。
本ケースは、歩行時の膝屈曲角の速度が遅く、遊脚時に体幹を動揺させてスイングする傾向にあり、歩行速度が上がらない。
しゃがむ時にゆっくりしか行えず、膝の関節内でゴリゴリと音がするという状況がありました。また、膝が伸びにくいという訴えもありました。
この点を踏まえて、4つの運動評価の中の特徴を述べていきます。
片脚立位で特に特徴的だったのが、小趾側荷重が強調されており、そこから運動が乏しいという点です。
また歩行時は、この特徴が著明となり、歩行周期において回外運動が大きく生じており、母趾側荷重がほとんど見られないのです。
ここから推測されるのは、足の回外運動により、連鎖的には膝は内旋方向に動き、外旋の制限が生じます。
つまり完全伸展位にはもっていきにくい状態になります。
また、足回外→膝内反ストレスも同時に生じており、膝窩内側構成帯のタイトネスを引き起こす要因となります。
つまりは、膝のアプローチにより、一時的に膝関節の機能は改善しますが、歩くたびに足からの回外運動の影響を強く受けてまた、タイトネスを作って戻ってきます。
足からの悪影響を見過ごしてしまうと、なかなか改善効果が定着しないということになります。
ちなみに足の回外運動が生じていることを本人は、指摘されるまで気付いていませんでした。
このように患部をみて、隣接関節をみないと、せっかくの膝へのアプローチを台無しにしてしまいます。
執筆者
山口剛司 PT, mysole®Grand Meister
Altruist 代表
理学療法士
フットケアコンサルタント
足部・足関節の関節可動域、筋力、アライメントなどの関節機能や歩行などの動作分析を行い、個人に適したインソールを作成するという足部・足関節のスペシャリストである。